今回の公益法人改革は、従来の枠組みに対する批判と多様化する公益活動に対する 柔軟な対応という二つの流れからなっています。公益法人の中には、マンネリ化し、 あるいは批判にさらされているところもありますが、新たな業務分野を開拓し、 積極的に新たな公益活動を展開しているところもあります。 これらに照らすと、今回の制度改革の主旨は、積極的で自由な公益活動の促進にあるといえます。
1 何が変わったのか
(1) 公益国家独占の開放
世界的には「会社」形態の公益活動も拡がっているといわれています。
これに対し、従来の仕組みは「公益国家独占」といわれるように、“お上”の許可 なしには公益活動は許さないというものでした。これが許可主義です。
この建前を変更するのが今回の制度改正点の第1点です。 すなわち、法人設立についての許可主義を廃止し、法律の規定に従って、 登記さえすれば、公益法人を設立できるという準則主義に変わりました。 公益を目的とする法人の設立を広く一般に開放するということです。
(2) 公益活動と公益法人との分離
従来の許可制の下では、公益性の認定が設立許可と同時に行われ、 「公益活動」=「公益法人」でしたが、今回、これが分離され、 「公益活動」を行う場合でも必ずしも「公益社団法人」「公益財団法人」になる 必要はないことになりました。すなわち、法人の設立と公益性の認定 とが分離され、「公益社団法人」「公益財団法人」と称したい法人だけが 公益認定を受ける仕組みとなりました。
改正前の民商法では「営利を目的とする社団」を「会社」としていましたが、 現在はこのような目的規制はなく、公益を目的とする「会社」も可能となっています。
今回の改正は、これらの動きに合わせて、公益活動の多様な展開を促進するものです。
(3) 行政による規律から法律による規律へ
従来の許可制では、主務官庁に許可をするかしないかなどの大きな権限と裁量が与えられていました。 今回この主務官庁制が廃止され、すべての規制が法律の規定に基づいて行われることとなりました。 最終的には司法の判断によります。
言い換えると、法律に規定がない事項は、すべて法人自治に委ねるということであり、 法人自治の尊重ということです。
- 公益認定、同取り消しの基準等を法律で定め、これらはこれに基づいて行う。
- 公益認定等の行政庁は、内閣総理大臣又は都道府県知事とする。
- 公益認定等は、公益認定委員会等の諮問に付して行う。
- 報告、検査、勧告、命令その他公益法人の監督は、行政庁が法令に基づいて行う。
2 メリット・デメリット
このような中で「公益法人」(公益社団法人・公益財団法人)か 「一般法人」(一般社団法人・一般財団法人)かなどを選択することになりますが、 税制の優劣だけでなく、それぞれの法人の強みや弱みに応じて、 目的の達成に最も望ましい形態を選択すべきです。
税制以外の主なメリットやデメリットは、次のようになります。
(法人の種類によるメリットやデメリット)
公益法人
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一般法人
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会社
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社会的信用
(名称独占) |
「公益社団法人」
「公益財団法人」 |
「一般社団法人」
「一般財団法人」 |
「会社」
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事業
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目的制限
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公益
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公益/共益
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なし
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活動制限
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収支相償の原則
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なし
(公益目的支出計画の制限あり) |
なし
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公益目的事業比率規制
(50%以上) |
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利益等の分配
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不可
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不可
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可
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会計
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新公益会計基準
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公正妥当な会計原則
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公正妥当な会計原則
|
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収益事業等の区分経理
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||||
財産
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基本財産
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法人自治
|
法人自治
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任意
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遊休財産
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規制あり
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規制なし
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規制なし
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行政の監督
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あり
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なし
(移行法人期間中はあり) |
なし
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(1) 社会的信用
一般的な信用や評価だけでなく、次のような課題を含みます。 事業計画に影響があります。
- 職員派遣を継続して受けるには
- 行政委託型公益事業を継続して受けるには
(2) 定款変更
財団法人の根本規則である寄附行為(「定款」といい改めました。)は、民法に規定がなく、 これまで原則として変更できないとされてきましたが、今回の改定で、 一定の場合にはできることとなりました。弾力的な運用が可能となります。
また、従来、残余財産は類似団体に帰属することとされていましたが、 定款で国又は地方公共団体に帰属させることができるようになりました。
その他、これに関しては、目的事業が自己限定的で活動を制約していると見られる場合があるなど 検討すべき課題は、少なくありません。
(3) 基本財産の管理運用
これまで財団法人は設立者の意思を尊重し、基本財産を守って、 その運用益で存続するという考え方から基本財産の維持が厳格に守られてきました。
しかし、これが減価償却等の妨げとなっており、死蔵ではないかとの批判もありました。
今回の改正では、公益目的事業のために不可欠な特定財産については、 厳格な管理が求められていますが、基本財産については、基本的には法人自治に委ねられています。 目的事業に不可欠なものとして定款で定めた基本財産は、その維持が求められますが、 何を基本財産にするかは任意です。従って、運用次第ではより積極的な公益活動が可能となります。
このほか会計基準の変更に伴い事業計画の見直しが必要になる場合もあり、 いずれにしても、今求められているのは、時代のニーズに合った公益活動の新しい受け皿づくりであり、 主体的取り組みです。