- 公益法人改革で根本的に変わったのは何ですか
- 主務官庁制の廃止とは主務官庁がなくなることですか
- 認定法は「公益」をどう確保し、どう捉えているのでしょう
- 公益目的事業かどうかは公益認定等委員会が決定するのですか
- 公益不認定に不服がある場合どうすればいいですか
今回の公益法人改革で、法人の設立が許可主義から準則主義になったとか、主務官庁制が廃止になったとかいうことがありますが、これらの基礎にあって、根本的に変わったのは、公益法人行政が官庁による裁量行政から法律による行政になったことです。
明治以来、旧制度では、公益法人の設立が許可されるかどうかは、「公益」を目的とするかどうかの一事にかかっており、その「公益」の何であるかは行政庁の裁量に属していました。しかし、新しい公益法人制度では、何が公益目的事業であるかをはじめ公益認定に必要な要件が「公益」という包括的、抽象的な概念によってではなく、具体的に詳細に定められています。そして、申請がこれらの要件に適合するときは、行政庁は、認定をするものとするとされており、別に欠格事由も法定されています(認定法5条、6条)。行政庁の裁量が働く余地はありません。したがって、行政庁がこの認定を誤った場合、当不当という裁量の問題ではなく、違法の問題となるため司法審査に服することになります。旧制度においては、たとえ「公益」判断を誤ったとしても、それは行政の専権事項とされ、当不当の問題として司法審査の対象外となっていました。すなわち、訴えてもムダだったわけです。根本的に違います。
新制度では、こうした法律による行政の原理が法人の設立や公益認定だけでなく、その後の公益法人の指導監督に至るまで、制度全般にわたって徹底しており、共通の基礎となっています。この点を理解しないと公益目的事業をはじめ恣意的な解釈に陥るおそれがあります。
公益法人改革によって、公益法人の設立(認定)、指導監督についての権限がそれぞれの公益事項を所管する従来の主務官庁から内閣総理大臣または都道府県知事に移ります(認定法3条)。したがって、主務官庁制の廃止といっても、これらを所管する官庁がなくなるわけではありません。
しかし、これは、形式的なことです。つまり、所管官庁がなくなるわけではありませんが、新しい所管官庁には「公益」についての裁量権がなく、これに関し広範な裁量権を持っているという意味での主務官庁がなくなるという点に実質的な意味があります。これからも所管官庁は所定の権限を持ちますが、その権限は法律に基づき、法律によってしか行使できません。
一口に公益といっても、公衆の日常生活に不可欠な電気、水道、ガス等の一群の事業が従来から公益事業、あるいは公益企業として捉えられていますし、法律は競輪や競艇の事業を公益の増進を目的とする事業として規定しています。とても一概には論じられません。従来は何が「公益」であるかが全面的に行政の判断に委ねられていたため、これが問題となることはありませんでしたが、法の下に公益法人を公平に扱おうとするとこれが大きな問題となります。
これについて、認定法は、二つの方針を採っています。一つは、公益目的事業の定義に見るように「公益」という包括的、抽象的な概念に頼らず、できるだけ具体的な基準・概念によって規律するという方針です。これに照らすと、認定法がいう「公益」とは、これらから逆に帰納されるものということになります。もう一つは、認定法の全体構造です。認定法は認定の基準を定めているだけでなく、「公益」を確保するために必要な指導監督規定を置いています(認定法27条以下)。特にその取消事由に照らすと認定法が収支相償その他の客観的な条件の充足をもって「公益」を確保しようとしていることが窺えます。これからすると、認定法は、収益を得る事業であるかどうかではなく、収支相償その他の客観的な条件により「公益」を捉えているように見えます。いずれにしても、「公益」という包括的、抽象的な概念はもはや安易に持ち出せるようなものではありません。
ガイドライン等に公益認定等委員会が「判定する」とかいう表現があるためでしょうか、公益目的事業かどうかは公益認定等委員会が決定するといった言い方がされますが、正確ではありません。公益認定等委員会は、あくまで諮問機関として判定し、判断するのであって(認定法43条、51条)、対外的、最終的に決定するのは行政庁である内閣総理大臣または都道府県知事です(認定法5条等)。
公益認定が拒否された場合、まず考えなければならないのは、再度の認定申請ですが、これについては別の機会に譲り、ここでは「官庁の裁量から法律による行政」により不認定に納得がいかない場合の法的救済手段がどう変わったかを説明します。
これには3つの救済手段があります。まず第1は、①行政不服審査法に基づく異議申立てです。この名宛人は内閣総理大臣または都道府県知事です。公益認定等委員会宛ではお門違いで却下されます。次は、②行政事件訴訟法に基づく不認定の取消の訴えです。そして三つ目が、③国家賠償法に基づく損害賠償請求です。これは不認定により損害が生じている場合に限りますが、地方公共団体にも適用があります。
この中で今回の制度改正の結果大きく変わったのは、②と③です。行政事件訴訟法は、「行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ、又はその濫用があった場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる。」と定めています(同法30条)。改正前においては、何が「公益」かの判断は行政庁の裁量に属していたため、不当な公益判断により設立の許可が得られず、又はその許可が取り消されたとしても司法の場で救済を求めることができなかったということです。この点が大きく変わっています。