- 一般法人に移行するとは「公益法人」の看板を下ろすことですか
- なぜ一般法人は公益法人ではないのですか
- 一般法人の「社団法人」「財団法人」には意味がなくなったということですか
- 一般法人が公益事業を実施しても、やはり非公益法人ですか
- 一般法人になると、社会的信用はどうなるでしょうか
- 一般法人になると、国等から補助金が受けられなくなるのでしょうか
- 社会的信用は、どう考え・どう補ったらいいですか
- 新しい公益法人は、従来とはどこが違うのですか
- 公益法人の税制上の優遇とは、具体的にどういうことですか
- 一般法人になると、税制上どのように不利になりますか
そうです。今まで「社団法人」「財団法人」は公益法人でしたが、一般法人に移行するということは、公益法人をやめるということです。
一般社団・財団法人は認定を受けてはじめて公益社団・財団法人ですから、一般法人が公益法人でないというのは、その意味では当然です。ここで一般法人が公益法人でないというのは、それだけではなく、一般法人は、営利を目的としない非営利法人に過ぎず、積極的に公益を目的とする公益法人(広義)とは認められないという意味です。
したがって、一般法人になるとは、公益法人の看板を下ろし、非営利法人の看板を上げることです。
先に一般法人は非営利法人であって、公益法人(広義)ではないといいましたが、非営利法人とは、消極的に営利を目的にしない法人をいい、積極的に何をやるかは自由です。そして、営利を目的にしないとは、利益を分配しないことです。
公益法人は違います。消極的に営利を目的にしないだけでなく、積極的に公益を目的とすることが必要です。そして、公益法人には、その公益性を担保するための仕組みが必ず存在します。公益目的事業費率や収支相償、公益目的事業のために受け入れた財産の公益目的事業以外への使用禁止などの一連の規制はこれです。逆に言うと、これらの制度的保障があるから、公益法人は、公益活動の主体として、社会的認知を受け、特別の地位が与えられているわけです。一般法人を公益法人や特定非営利活動法人と比べると、次のようになります。一般法人に目的の制限がなく、公益性の担保がないことは明らかです。
そうです。従来は「社団法人」「財団法人」=「公益法人」でしたが、新制度ではそういう意味はありません。そして、「一般」が「非営利(非公益)」を表しています。
多くの特例民法法人は引き続き公益事業を行うでしょうが、一般法人の目的事業は、公的チェックを受けていませんし、それが確実に実施されるという制度的保障もありません。したがって、それがたとえ公益目的事業に該当したとしても、自発的な公益活動に過ぎず、客観的にはそれをもって公益法人とはいえません。
移行認可に当たっては、継続事業等が公益に関する事業等であることの確認を受け、その確実な実施が求められますが、これは公益目的財産額の公益に関する事業等への支出をチェックしているだけで、法人の目的自体等をチェックするものではありません。
結局、公益法人になるには、公益認定を受ける以外にはありません。
社会による評価ですから一概にはいえませんが、一般的には、公益に関する信用が低下すると思われます。
- 一般法人は公益性の有無、目的を問わず、登記さえすれば誰でも設立できます。規制もほとんどありません(非公益法人比較表)。これらに照らすと、一般法人の社会的信用は、NPO法人より高いとはとてもいえません。
そのNPO法人でも「信頼できる」という人は6.5%しかいません。「おおむね信頼できる(24%)」と合わせても30.6%です。「どちらともいえない(40.7%)」「わからない(12.9%)」が多く、必ずしも高いとはいえない状況です(内閣府:平成17年世論調査)。
また、NPO法人の設立には行政庁の認証が必要で、行政庁の監督も働いていますが、それでも法人格を悪用する事例や不祥事が後を絶ちません。一般法人は、制度的に、この危険が一層高いと思われます。
- 現在の「社団法人」「財団法人」には、高い信頼性があり、その相当数が一般法人に移行しますから、一般法人に対する社会的信用は、差し当たり、維持される可能性が高いでしょう。しかし、それが高ければ高いほど、この信用を借用して悪用するために一般法人を新設する動きが生じるおそれがあります。そうなると、一般法人の社会的信用は、大きく損なわれます。
- しかし、このように一般法人になったことによって公益に関する信用が下がったとしても、それが経営に及ぼす影響は法人によって違います。
例えば、その活動が公益活動であることを前提に補助金その他の公的支援を受けている法人や公益性の信頼を前提に情報発信や業務受託等をしている法人にとっては、公益法人であることに大きな意味があり、公益性の信用が重要な経営資源です。その場合には、公益性の信用の喪失が大きな経営上のマイナスとなります。しかし、そうでない場合は、経営にはほとんど影響がないということもあり得ます。
つまり、一般論としての公益性の信用の低下の程度とそれがそれぞれの法人の経営にどれだけ響くかは区別しなければなりません。
国等の補助金は、個人だから株式会社だからといって受けられないというものではありません。したがって、一般法人になったから受けられないということはありません。しかし、補助金は公益のために必要がある場合に交付されるものですから、実際に交付されるかどうかはわかりませんし、その際に公益性の制度的保障を欠く一般法人とそれが保障された公益法人とが同一に扱われるという一般的保障もありません。
今回の改革により多くの法律で「社団法人・財団法人」が「一般社団・財団法人」に拡張されていますが、同様です。法律上の可能と実際そうなるかどうかは別です。
社会的信用は、一種のブランドですから、同じ公益性の信用が法人の経営に同じように寄与しているとは限りませんし、その構成要素は、制度的要因だけとは限りません。 したがって、次のように定式化することができます。
B:構成要素(公益に関する信用その他)
R:寄与率(各要素の実現率)
(1)基本戦略
社会的信用は、制度的な要因である公益性の信用だけではありませんからそれが低下しても非制度的な要因(サービスの質、価格その他)で補うこともできますが、公益性が強く求められている場合、これを補完しなければ、全体としての社会的信用が損なわれる可能性があります。したがって、基本戦略は次のようになります。
(2)公益に関する信用の補完
一般法人になると公益に関する信用が低下するのは、制度的に公益性の保障を失うからですが、信用は社会的評価ですから、自己規制によりこれを担保する仕組みを作り、これが関係者その他において社会的に認知されれば補完することが可能です。
具体的には、定款において公益に関する事業を「主たる目的」とし、そのために受け入れた財産の使途(残余財産の帰属を含む。)、収支相償等公益性を担保する仕組みを作ることになります。ただし、広域になればなるほど社会的認知を得ることは困難になるでしょう。
(3)代替的な信用の補完
公益性が強く求められていない場合は、公益性の信用のウエイトが低いわけですから、それを補完するよりも、他の信用要因を補完した方が有効な場合があります。また、公益に関する信用を補完しにくい場合、あるいは公益性の信用を犠牲にしても積極的な事業の展開を図りたい場合もあります。こういう場合は、他の信用で代替的に補完します。
ここで大事なことは、隠れた信用を発掘し、寄与率を改善するということです。高い信用要因も経営に活かされてこその信用です。
(4)公益法人のブランド戦略
これらのことは、公益法人にも当てはまります。今回の公益法人改革は、一種の差別化ですから、公益における優位性を一層高め、活かすにはどうしたらいいかを考えなければなりませんが、基本は、以上と同じです。
新しい公益法人は、従来と比べると規制が強化されていますが、それだけ公益法人のブランド性が上がったといえます。
公益目的事業費率や収支相償基準など多くの基準が監督上の指導基準から法律基準に高められ、詳細化していますが、経営的には、次のような点に注目すべきでしょう。
ⅰ 法律による拘束以外は自由です
内閣府が「監督についても主務官庁による裁量的なものから法令で明確に定められた要件に基づくものに改められた」(内閣府「監督の基本的考え方」H20.11.21)といっているようにこれからは法律による拘束以外に法人は行政庁の干渉を受けることはありません。自由です。主務官庁制の廃止もこの意味です。公益の実質的判断が不要で、法律を当てはめるだけなら所管官庁である必要はないからです。
法律は、公益性の確保のために公益目的事業について必要な規制を加えているだけです。言い換えると、事業の半分は自由ということです。費用でなく収益の比率では、半分を超える場合もあります。
もう一つ大事なことは、基本財産の維持が強制されなくなったことです。この結果、基本財産を経営に積極的に活かすことができるようになりました。
ⅱ 公益を中心とした有利な事業展開ができます
公益法人は、収益事業等の利益の50%は公益目的事業で使用するためにそれに繰り入れなければならず、公益目的事業のために受け入れた財産はそれを行うために使わなければなりません。このために公益目的事業財産等の規制があり、会計は、公益目的事業会計、収益事業等会計及び法人会計の3つに区分して管理しなければなりません。これは収支だけでなく、資産管理にまで及んでいます。
この点が従来とは大きく違います。今までは、法人会計の不足を公益会計で補うことも自由でしたが、今後はできません。
これが資金計画や経営計画に大きく影響するのは当然ですが、これは、それだけでなく、公益法人は公益目的事業を中心に、有利な事業展開ができる仕組みになっており、それが制度的に保障されているということです。税制的にも手厚く優遇されていますが、それが公益目的事業に集中するようになっています。
したがって、事業の組み立て方、捉え方を変えなければなりません。この仕組みを公益目的事業の展開に積極的に活かさなければなりません。100%公益目的事業の法人でも一部を収益事業にすることができますから同様です。
ⅲ 一層手厚い税制上の優遇が受けられる
公益法人と一般法人は、税制上はっきりと差別化されています。すなわち、公益法人は一層手厚い税制上の優遇が受けられるようになった一方、一般法人は従来よりも厳しくなります。これは経営上も公益法人の大きな強みです。
特例民法法人は従来どおりですからこれを基準に比較すると次のとおりです。
一般法人と公益法人とでは、大きな開きがあります。
1 税負担が大幅に軽減される
公益法人は、次の二つの実質的課税除外によって税負担が大幅に軽減されます。
ⅰ 公益法人が行う公益目的事業は収益事業であっても課税されません。
例えば、税法上の収益事業に係る所得が1,000万円あったとして、そのうち半分が税法上の収益事業に当たる委託などの請負業や出版業に係る所得であり、当該事業が同時に公益目的事業だとすると、公益目的事業に係る所得は収益事業に係る所得から除かれますので、この場合、先ずこれにより半分が課税除外となります。
認定法上の収益事業と税法上の収益事業とは違いますから100%公益目的事業の法人でもこの特典が活用できる場合がありますから注意が必要です。
ⅱ 収益事業から公益目的事業に繰り入れた所得には課税されません。
これはいわゆるみなし寄附金です。法人内部における公益目的事業への繰入額を寄附金とみなし、損金算入するものです。したがって、それだけ課税所得が小さくなります。
この繰入れは、公益目的事業の当該年度の費用補てんのための繰入れだけでなく、資産取得のための繰入れでも差し支えありません。更に、将来の公益目的事業の費用の積立てや資産取得の積立てのための繰入れも含まれます。
したがって、例えば、上の例でいうと、残りの課税所得500万円を公益目的事業会計に繰り入れると、結局、課税所得はゼロになるということです。
繰入れの限度額は、所得の50%と繰入額の多い方ということですが、収益事業の50%は繰り入れなければならないので、基本的には、繰り入れただけ認めるということです。
これは、何年かごとにイベントをするために積立をしている法人とかにとって大きな効果が期待できます。その他いろいろな活用の仕方が考えられます。
2 寄附募集が優位になります
公益法人のうち主務大臣の認定を受けて特定公益増進法人になっているのは4%弱ですから、今までは、公益法人に寄附しても寄附した個人や法人が特定公益増進法人に対する寄附として寄附金控除など税制上の優遇措置を受けることはほとんどできませんでした。
しかし、今回の改正で、公益法人は法律上当然に特定公益増進法人となりますので、今後は、公益法人に対するその主たる目的業務に関する寄附は、主務大臣の認定など受けなくてもすべて寄附金控除等税制上の優遇措置が受けられる寄附金になります。日本赤十字などと同じ扱いの寄附金になるということです。これも一般法人には認められません。
この優遇措置が地方税を含めて更に拡充されていますので公益法人は寄附募集の上で明確に優位になります。今後これが大きな意味を持ってくる可能性があります。
一般法人になると、公益法人の税制上の優遇が受けられないだけでなく、従来に比べても次のような点で不利になります。
- 収益事業の利益を公益に関する事業の会計に繰り入れた場合、従来はみなし寄附金の損金算入の扱いが受けられましたが、これが受けられなくなります。それだけ収支バランスが崩れます。
- 一般法人の中には非営利型法人とそれ以外の法人とがありますが、非営利型法人以外の法人は、全所得課税になりますので、収益事業に属さない会費収入その他一切の収入・収益が課税対象となります。税負担に大きく影響する可能性があります。
- その他今まで非課税であった利子等に係る源泉所得税が課税になりますし、固定資産税等の課税の問題(平成25年度分までは差し当たり非課税)などもあります。法人によっては大問題です。