- 収支相償には二つの側面がある
- 収支相償計算の基礎となる事業の単位は
- 公益目的事業の収入は1年でも費用を上回ってはいけませんか
- どういう収入と費用とを比較するのですか-収支相償の計算は
- 経常収益・費用はそれぞれの段階でどう捉えるのですか
- 第一段階の収入超過はどう調整するのですか
- 第二段階での調整はどうするのですか
- 剰余金とは何ですか
収支相償というと収入超過の調整を想起しがちですが、それだけではありません。収支相償とは、公益目的事業に係る収入と費用との比較ですが、公益目的事業をどう捉え、それに必要な資金や財産をどう組み立てるかによって調整の対象となる収支相償の状況そのものが違ってきます。公益目的事業のまとめ方によっても違います。後者は、(公益目的事業財産は認定基準とどう関係するのですか)などと関連しています。法人によっては、将来の事業拡張や特別事業のためにむしろ公益目的事業の利益を積極的に確保しなければならない場合もあります。これは公益法人の経営の組み立て方の問題でもあります。収支相償にはこういう二つの側面があります。
収支相償は、第一段階では、公益目的事業ごとの収入と費用で判定します(ガイドラインⅠ-5)。したがって、事業の捉え方によって収支相償の状況が変わってきます。
- それぞれの公益目的事業の目的や実施の態様等から関連するものをまとめたものを一の事業単位とします(FAQⅤ-2-①)。
- 「公益目的事業のチェックポイント」のいわゆる典型17事業区分は公益性のチェックのための区分ですから必ずしもこれに拘束されません(同チェックポイント横断的注記)。この複数の事業区分にまたがる事業であっても、相互に関連するものは一の事業にまとめることができます(FAQⅤ-2-①)。
この基準は、公益目的事業の収入が、現在の費用だけではなく、将来の費用も含めて、その適正な費用の額を超えないことを求めるものです。単年度で必ず収支が均衡することまで求めるものではありません。つまり、公益目的事業の収入は、公益目的事業のために使用すればいいわけです(FAQⅤ-2-②、③)。特定費用準備資金の積立など資産への支出が費用として扱われますが、これらも将来費用化しますから、同じことです。
したがって、特定費用準備資金への積立などの将来費用を含めて中長期的に収支が相償していれば、この基準は満たされているものと判定されます(FAQⅤ-2-③)。法人は、公益収益を公益目的のために現在使うか、将来使うか選択できるわけです(FAQⅤ-2-④)。
なお、この基準は、公益認定の取消し事由となっていますが、1円超えたから取消しなどということにはなりません(認定法29②一)。比例原則に反します。
公益目的事業に係る次のような収入と費用とを比較して判定します(FAQⅤ-2-②)。
(1)収益事業等からの利益の繰入が50%の場合
(2)収益事業等からの利益の繰入が50%超の場合
(3)説明
- 収支相償は、第一段階(空色)と第二段階との2段階で判定されますが、上表はこれを統合したものです。
- 収入・費用は公益目的事業に係るものに限ります。「公益目的事業」と「その他」の経常費用・収益の合計は公益目的事業会計のそれと一致します。経常ベースです。
- 収益事業等から繰入れは、50%か50%超(認定規則26七、八)かのどちらかです。50%未満はありません(認定法18四、認定規則24)。
- 繰入れの基礎となる収益事業等の利益の額は、それから管理費のうち収益事業等に按分する額を控除した額です(ガイドラインⅠ-5)。
- 収益事業等から50%超の繰入れをするのは、その必要がある場合ですから、この場合には、収支余剰が生じることはありません(FAQⅤ-2-⑤)。
- 50%超繰入れの場合の収支相償計算は、50%の場合と、次の点が違います。
① 上表の太字の項目が第二段階の加減算項目に追加されています。ただし、公益目的保有財産の取得支出や公益資産取得資金繰入れは50%繰入れの場合でも最終の調整項目になっています。
② 特定費用準備資金、資産取得資金の当期の積立て額は、50%繰入れの場合には制限はありませんが、50%超繰入れの場合には上限があります。
③ 公益目的保有財産に係る減価償却費は、重複排除のため経常費用から控除します。
収支相償は経常収益と経常費用とを2段階に分けて捉え、比較しますが、今仮に、公益目的事業がA事業とB事業の二つの事業からなっているとして、公益目的事業の経常収益の中には、A事業の収益、B事業の収益というように特定の事業の収益といえるものとそうでないものがあります。「各公益目的事業に直接関連する費用と収益」とか「特定の事業に係る収支」は前者で(FAQⅤ-2-②、④)、「特定の事業に関連付けられた」収入と費用(ガイドラインⅠ-5)です。
「公益」とは?
法律は「公益目的事業」と区別して「公益の目的」といっていますが(整備法119)、説明用語としては、「公益目的事業」の意味で「公益」といったり、更には特定の公益目的事業に関連付けられていないという意味で「公益」といったりしています。「公益のためとして一般的に受ける寄附金」や「公益に係るその他の経常収益」等がそれです。したがって、これらは特定の事業とは関連付けられていない公益目的事業の収益のことです。
これに対し、公益のためとして一般的に受ける寄附金(FAQⅤ-2-④、会員協賛金等)や公益目的保有財産の運用益などは、必ずしもA事業の収入だとかB事業の収入だとかまではいえず、これらが「特定の事業に関連付けられていない」経常収益です(FAQⅤ-2-④)。
費用も同様ですが、費用は収益と異なり、事業に関連付けられない経常費用というものは基本的に考えられないため(認定規則19)、ほとんどが第一段階の費用となります。
これらを踏まえ、公益目的事業の経常収益・費用は、次のように把握し、整理されます。
- 事業ごとに捉え、比較(第一段階)
公益目的事業の経常収益・費用のうち特定の事業の収益・費用といえるものを事業ごとに把握、整理し、それぞれの総合計を第一段階の経常収益、経常費用とします。これが上表の「公益目的事業に係る経常収益(経常費用)」です。第一段階はこれで比較します(ガイドラインⅠ-5、FAQⅤ-2-④)。
- 公益目的事業会計全体で比較(第二段階)
第二段階では、第一段階の「公益目的事業に係る経常収益(経常費用)」に「公益のためのその他の経常収益(経常費用)」を加え、公益目的事業会計に属するすべての経常収益・経常費用を求め、これに所定の調整項目を加減算して、公益目的事業会計全体の収支で判定します(ガイドラインⅠ-5、FAQⅤ-2-④)。事業ごとではありません。
したがって、第二段階の「公益のためのその他の経常収益(経常費用)」とは、公益目的事業の経常収益(経常費用)のうち第一段階の「公益目的事業に係る経常収益(経常費用)」を除いたものです。
第一段階の収支相償は、あくまで事業ごとです。したがって、A事業の赤字とB事業の収入超過を相殺することはできませんし、収支相償の適否も事業ごとに判定します。したがって、事業のまとめ方によって事業ごとの損益が違ってきますし、収益を第一段階の収益とみるか、第二段階の収益とみるかによっても黒字の出方が違ってきます。
ⅰ 特定費用準備資金による調整
第一段階では、ある事業の収入が費用を上回る場合、それを当該事業に係る特定費用準備資金の積立て額として整理します(ガイドラインⅠ-5)。事業ごとの積立てです。
ⅱ それでも解消されない黒字
それでも解消されない黒字の事業が残るときは、その発生理由や解消計画等を説明し、収支相償の判定は第二段階に持ち越されます。
第二段階では、第一段階での収支に加えて、更に特定費用準備資金その他で調整することになりますが、次のような点に注意が必要です。
ⅰ 資産取得に係る資金も調整項目です。
第二段階では、公益目的保有財産の当期の取得支出や将来のその取得・改良のための資産取得資金(公益資産取得資金)の積立てが調整項目の一つになります。
ⅱ 収益事業等からの繰入れ率によって収支相償の計算の仕方が違いますが、これは毎事業年度、選択することができます(FAQⅤ-2-②)。
ⅲ これらの調整をしてもなお残る剰余金は、公益目的保有財産に係る資産取得、改良に充てるための資金に繰入れたり、当期の公益目的保有財産の取得に充てる場合には、収支相償の基準は満たされているものとされます。それでも残る余剰金は、翌年度に事業の拡大等により同額程度の損失となるようにします(ガイドラインⅠ-5)。また、事業の性質上特に必要がある場合には、個別の事情について案件ごとに判断されます(ガイドラインⅠ-5)。
ガイドラインⅠ-5(4)は、同(2)又は(3)に対応しています。したがって、同(4)の「剰余」が生じる場合とは、第二段階までの特定費用準備資金や公益資産取得資金の繰入でも解消しない公益目的事業の黒字のことです。