認定基準の一つであり、新しい内部留保の制限です。
- 遊休財産額の保有の制限とは何ですか
- 公益実施費用額とは何ですか
- 遊休財産額の算定は
- 控除対象財産の2種類の寄附等の区別は
- 控除対象財産額から控除する対応負債の額の算定は
- 指定正味財産は遊休財産額になりませんか。基本財産はどうですか。
- 引当金、引当資産等との関係は
- 公益目的事業財産とは捉え方が違います
- 基本財産の運用益等の扱い
- 他には控除対象財産となる金融資産はないのですか
遊休財産額とは、公益目的事業又は収益事業その他の業務若しくは活動のために現に使用されていない財産で、これからもこれらのために使用されることが見込まれない財産の合計額です(FAQⅤ-4-③)。遊休財産額の保有の制限とは、公益法人の各事業年度の末日における遊休財産額がその年度の公益実施費用額(上限額)を超えてはならないという制限です(認定法16)。
遊休財産額 ≦ 上限額(公益実施費用額)
そして、遊休財産額が上限額を超えない見込みであることが認定基準であり(認定法5九、ガイドラインⅠ-8)、認定後においてもこの基準に適合しなくなったときは公益認定が取り消されることがあります(同法29②一)。
公益実施費用額とは、公益目的事業の実施に係る費用の額(認定規則13)で、公益目的事業比率の算定に用いる公益実施費用額と同じですが、公益目的事業比率の算定上は公益実施費用額に含めることができる次のみなし費用は、遊休財産額の上限となる公益実施費用額には含めることができません(認定規則21①)。
① 自己所有土地のみなし賃借料(認定規則16)
② 無償又は低利の融資のみなし利子(認定規則16の2)
③ 無償の役務の提供等に係る費用(認定規則17)
なお、その事業年度が1年に満たないときは、公益実施費用額を当該事業年度の月数で割り、それを12倍したものを上限額とします(認定規則21②③)。
遊休財産額は、具体的には、次により算定します(認定規則22②)。
遊休財産額 ={資産-(負債+基金)}-(控除対象財産-対応負債)
つまり、基金を除く純資産額から控除対象財産に対応する負債の額を控除した控除対象財産の額を控除した残りです。控除対象財産は次の6つです(認定規則22③)。
控除対象財産の中に2種類の寄附等財産があります。そのうち、一つは、「当該財産を交付した者の定めた使途に従って使用し、若しくは保有しているもの」です(上表の⑤、認定規則22③五)。もう一つは、「当該財産を交付した者の定めた使途に充てるために保有している資金」です(同表⑥、認定規則22③六)。前者は、現に定められた使途に従って使用し、保有している財産ですが、後者はまだその用に供されていない、そのための保有資金です。前者は金融資産その他の財産ですが、後者は資金に限るという違いもあります。
個別法(原則)と簡便法(選択可)とがあります(認定規則22⑦、⑧、FAQⅤ-4-⑥)。
- 個別法
例えば、公益目的保有財産取得の借入金のように、各控除対象財産に直接対応する負債(A)とそれ以外(B)とに区分し、次により求めます。対応負債 =(A)+(B)×(a)/(a+b)
A:各控除対象財産に個別に対応する負債の額
B:控除対象財産額-A-指定正味財産額
a:負債の額-引当金の額-各資産に個別に対応する負債の額
b:総資産の額-負債の額-指定正味財産額
(注)負債には基金を含み、指定正味財産は控除対象財産額に係るものに限る。 - 按分の考え方
貸借対照表の借方(資産)、貸方(財源:負債・正味財産)からその対応関係が明瞭な指定正味財産と負債に対応分を除くと、その対応関係が不明瞭な資産と負債・一般正味財産が残ります(右図)。個別法の按分の考え方はこれよるものです。すなわち財源との対応が明らかでない控除対象財産のうちの負債対応分を負債と一般正味財産との比率で按分するものです。簡便法も考え方は同じです。個別対応を行わないため(A)がないだけです。
ポイントは、指定正味財産は財源が明確な控除対象財産になるということ(⑤又は⑥)、算式の(a)の「各資産に対応する負債」は控除対象財産以外の資産に対応する負債を含むということおよび(b)は一般正味財産であるということです。
- 簡便法
対応負債 =(B´)×(a´)/(a´+b)
B´:控除対象財産額-指定正味財産額
a´:負債の額-引当金の額
b:総資産の額-負債の額-指定正味財産額
遊休財産額とは、結局、過去の損益の累積である一般正味財産のうち控除対象財産に対応しない部分の金額です。すなわち、遊休財産額とは、純資産額から指定正味財産相当額と控除対象財産のうち一般正味財産に対応する部分の金額を控除したものになります。したがって、指定正味財産相当額は遊休財産額にはなりませんが、基本財産はなることがあります。従来の指導監督基準上の内部留保の制限とは捉え方が違います(FAQⅤ-4-②)。
一方、一般正味財産は、控除対象財産のうち対応部分だけが控除対象財産になりますから、それに組み入れなければ遊休財産額が大きくなります。
(注)遊休財産額の計算式は、次のように展開できます。
遊休財産額(Y);純資産(J);控除対象財産(K);対応負債(H);その他の記号は上記「考え方」
Y=J-(K-H)=J-{(A+ア+B)-H} (∵ K=(A+ア)+B )
H=(A)+(B)×(a)/(a+b) であるから
Y= J-[(A+ア+B)-{A+B×a/(a+b)}]= J-[(ア+B)-{B×a/(a+b)}]
= J-[(ア+B)-{B×a/(a+b)}]= J-[ア+B×{1-a/(a+b)}]
=J-[ア+B×b/(a+b)]=J-(指定正味財産+控除対象財産のうち一般正味財産対応部分)
- 引当金の引当資産は遊休財産になりません。
遊休財産額の基本は、純資産=資産-負債で、引当資産はそれに見合う引当金が負債として控除されるため、遊休財産額には含まれません(FAQⅤ-4-③)。これは、引当資産が控除対象財産であっても・なくても同じです。したがって、引当資産は控除対象財産からも除外されています(認定規則22③)。 - 対応負債算定上の引当金の額はすべての引当金勘定の金額です(認定規則22⑦)。
したがって、この引当金は、控除対象財産を引当資産とする引当金に限らず、普通預金等を見合い資産とする賞与引当金等も含みます。 - 減価償却は引当金とは区別されます。
減価償却はそれを通じて資産自体が減額されるので、減価償却累計額相当額は資産から除かれており、遊休財産額には含まれません。
したがって、減価償却によって内部留保された資金は遊休財産を構成しますが、資産取得資金(③)の要件を満たしている減価償却引当資産や建物修繕積立金は控除対象財産となり、遊休財産から除かれます(FAQⅤ-4-④)。
二つの点で違います。
- 遊休財産とは、法人の公益目的事業、収益事業等、管理業務のどの用にも供されていない財産です。これに対し、公益目的事業財産は、公益目的事業のために使用、処分しなければならない財産です。対象事業等の範囲が違います。
- 公益目的事業財産は公益目的事業のために使用、処分しなければならない財産ですが、遊休財産はそれが現に何の用にも供されていない財産です(認定法16②)。したがって、次のようになります。
① 公益目的事業のために使用、処分すべきものとされた公益目的事業財産(公益目的保有財産)の額はそれ以外の事業等のために使用、処分しても減少することはありませんが、控除対象財産としての公益目的保有財産は断続的であっても、継続して公益目的事業の用に供していなければ控除対象財産とはなりません(ガイドラインⅠ-8)。したがって、3年に1度でも公益目的事業の用に供するものは控除対象財産ですが、断続的にも用に供しない財産は遊休財産です。
② 公益目的保有財産は断続的であっても、継続して公益目的事業の用に供していなければ控除対象財産となりません(ガイドラインⅠ-8)。したがって、3年に1度の公益目的事業の用にしか供さなくても控除対象財産ですが、それもなければ遊休財産です。
③ 使途の定めを受けた寄附財産であってもその定められた使用の実態がないもの、資産取得資金であってもその使用の実態がないものは遊休財産になります(ガイドラインⅠ-8)。
単に積み立てているだけでは、控除対象財産には該当せず遊休財産になります(FAQⅤ-4-④)。しかし、運用益を管理業務に充てるため又は公益目的事業に充てるために保有する金融資産は、合理的な範囲に限り、①又は②の控除対象財産として貸借対照表の基本財産又は特定資産に計上すれば、遊休財産とはなりません(ガイドラインⅠ-8)。
また、予備費など将来の単なる備えや資金繰りのために保有する資金も遊休財産になりますが、一定の財政基盤確保のための資金(基金)で、特定費用準備資金(④)の要件を満たすものは遊休財産から除外されます(FAQⅤ-4-④)。
「○○事業資金」とか「○○基金」という名目で金融資産を保有している法人は少なくありません。そして、これらは具体的な支出計画に基づかないものであることが多く、資産取得資金や特定費用準備資金に該当しないのが普通です。これは減価償却引当資金についても同様です。
それでは、これらの資金は控除対象財産にならないかというとそうとは限りません。
控除対象財産には、資産取得資金(「遊休財産額」の③)や特定費用準備資金(④)、指定正味財産(⑤⑥)だけでなく、公益目的保有財産(①)や収益事業等・管理活動財産(②)があり、公益目的保有財産等(①②)に該当する財産も控除対象財産となります。
控除対象財産としての公益目的保有財産等は継続的に事業等の用に供することが必要ですが、実物資産と違い、金融資産を事業等の用に供するとは、それを事業等のために費消することだけでなく、その果実を事業等に充てることをいいます(ガイドラインⅠ-8、FAQⅤ-4-③)。したがって、これらの資金であってもその果実を特定の事業等に継続的に充当する場合には、公益目的保有財産(①)又は収益事業等・管理活動財産(②)として控除対象財産とすることができます。ただし、これらは貸借対照表の基本財産又は特定資産として表示、計上したものに限り、収益事業等・管理活動財産(②)については合理的な範囲に限ります。
なお、控除対象財産の定義は、排他的ではなく、資産取得資金(③)や特定費用準備資金(④)であっても公益目的保有財産(①)や収益事業等・管理活動財産(②)として扱うことも可能です。ただし、これら資金の果実を当該資金に積立てているだけでは果実を事業等に充当したことにはなりません。