財団法人の基本財産をめぐる制度が大きく変わっています。
- 何が変わったのですか
- 定款で基本財産を定めるかどうかは任意です
- 定款で基本財産と定めても必要な処分はできます
- 基本財産を定款で定めるのと・定めないのとで何が違いますか
- なぜ最低純資産制度が導入されたのですか
- 減価資産を基本財産にすると基本財産は維持できますか
- 基本財産とは不可欠な財産のことですか
- 土地や建物は不可欠特定財産にはなりませんか
- 基本財産に関する寄附行為の定めはどうなるのですか
- 旧財団法人の基本財産はどうすれば処分できますか
財団法人の基本財産制度が次の3点で変わっています。
- 基本財産は、従来、原則として処分してはならないとされてきましたが、不可欠特定財差を除き取崩しその他の処分が可能となりました。
- 最低純資産制が導入されました。
- 従来の寄附行為の定めが基本財産に関する定めとしては効力を失っています。
一般財団法人が定款で基本財産を定めるかどうかは法人の任意となり、財団法人の人格の基礎としての基本財産という考え方はなくなりました。
(1) 従来の指導監督上の基本財産
従来の指導監督基準では、基本財産は、財団法人の人格の基礎であり、公益活動を行うための収入の基本となる重要な財産であるから、その管理運用に当たっては、これが減少することは厳に避ける必要があるものとされていました(公益法人の設立許可及び指導監督基準の運用指針)。
すなわち、次のような財産が基本財産とされ、これらの財産は、原則として処分できず、安全確実な方法で維持管理すべきものとされてきました。
ア 設立当初の財産目録中基本財産の部に記載された財産
イ 基本財産とすることを指定して寄附された財産
ウ 理事会において運用財産から基本財産に繰り入れることを議決した財産
(2) 新制度における基本財産
これが新制度では「一般財団法人の目的である事業を行うために不可欠なものとして定款で定めた基本財産」があるときは、理事は定款の定めによりそれを維持し、かつ目的である事業の妨げとなる処分をしてはならないとなりました(一般法172②)。すなわち、新制度では、法人の自主的判断で、定款で基本財産を定めることも、定めないこともできます(FAQⅥ-3-①)。これが新しい基本財産の制度です。
ただし、公益財団法人については、認定要件として「公益目的事業を行うために不可欠な特定の財産があるときは、その旨並びにその維持及び処分の制限について」必要な事項を定款で定めることが必要ですから(認定法5十六)、不可欠特定財産については、維持及び処分制限が強制されます。そして、この不可欠特定財産の定款の定めは同時に一般法人法172条2項の基本財産の定めとなります(ガイドラインⅠ15認定法第5条第16号関係)。
しかし、不可欠特定財産とは、例えば、一定の目的の下に収集、展示され、再収集が困難な美術館の美術品や、歴史的文化的価値があり、再生不可能な建造物等です(ガイドラインⅠ15)からこれを有しない公益財団法人もあります。その場合には、公益財団法人であっても基本財産をどう管理運用するかは法人の任意です。
従来から基本財産であっても主務官庁の承認を得て処分が可能でした。それが新制度では定款で基本財産とした財産であっても、「定款の定めるところにより」例えば理事会の決議により、必要があれば法人の判断で処分できます。行政庁の承認は不要です。つまり、基本財産を定めることは、処分禁止を定めることではありません。不可欠特定財産についても同様ですが、不可欠特定財産はその物がなければ事業が実施できない性格のものですから自ずと扱いが異なるはずです。
(注)従来の取扱いでは、基本財産を減価する資産、運転資金や融資などに運用することは基本財産維持の観点から望ましくないとされてきましたが、これからは法人の適切な判断で必要があればこれらの運用も可能です。
理事の責任が違います(一般法172②)。しかし、理事が同条の義務を負わないからといって基本財産を自由に処分できるわけではありません。すなわち、寄附で受け入れた財産は使途の制約を受けており、理事は法人に対し受任者の責任だけでなく忠実義務を負っています(一般法172①、197準用の83)。また、重要な財産の処分は必置機関である理事会の専権事項であり(一般法197準用の90④)、理事は独断専行できません。
また、基本財産と特定資産の区別は法律上特に意味がありませんし、基本財産だから遊休財産でないとか、基本財産でないから遊休財産だともいえません。公益目的事業財産かどうか等とも関係ありません。あるいは、基本財産が滅失して目的事業が成功不能になると解散事由となりますが(一般法202①三)、これは法人の一般的解散事由の例示に過ぎません。基本財産が滅失しても成功不能にならなければこれに該当しませんし、基本財産でなくてもその滅失により目的事業が成功不能になれば該当します。結局、基本財産とするか・しないかで実質的に大きな違いはないようです。
財団法人の物的基礎の最低限を純資産に求めるものです。従来は、これを基本財産という特定の物の維持に求めてきましたが、それとは違います。
- 基本財産を維持しても必ずしも正味財産を維持したことにはなりません。例えば、基本財産を維持しても、赤字が続けば、実質的にはいずれそれに食われてなくなります。
- 物の維持と価値の維持は違います。また、基本財産の果実で財団の運営ができるような時代でもありません。従来は基本財産を守ることに固執してきましたが経営に投下し、活用してこその基本財産です。貯蓄は目的事業への投下ではありません。
そして、一般財団法人の物的基礎は、次のように確保されるようになりました。
- 一般財団法人の設立には財産の拠出が不可欠であり、それは充実されなければなりません。設立者にはこの義務があり(一般法153、157、161)、同時に定款を通じて財団の管理運営を拘束します(一般法152①五)。これは従来と同じ構造です。
- ただし、この設立時拠出財産は300万円を下回ってはならず(一般法153②)、それを基本財産にするかどうかは任意です(一般法172②)。
- また、純資産額(正味財産額)が連続して2事業年度300万円未満となった場合には当然に解散となります(一般法202②)。
これからは基本財産を単に維持しているだけではなく、公益目的のために積極的にこれを活かし、正味での財産の維持が重要です。
減価資産を基本財産にすると、基本財産は減価償却費相当額だけ年々減少しますが、正味財産が維持されているならば(注)、減価償却費相当額だけ資産が内部留保(資産の増または負債の減)されているので、基本財産は実質的に維持されることになります。更に、この内部留保資産を基本財産または特定資産として追加設定すれば基本財産は形式的にも維持されることになります。
(注)当期一般正味財産増加額≧基本財産の減価償却による当期指定正味財産減少額
公益財団法人の不可欠特定財産は同時に基本財産になりますが、基本財産は不可欠特定財産に限りません。法人が「不可欠なものとして定款で定めた基本財産」です(一般法172②)。これは不可欠特定財産の「不可欠な特定の財産」(認定法5十六)とよく似ていますが違います。国債その他の金融資産、土地、建物等は、一般的には、不可欠特定財産には該当しませんが、基本財産はこれらの財産であっても定款で定めれば基本財産にできます。
- 不可欠特定財産
これは客観的に「不可欠な特定の財産」をいいます。したがって、法人が定款で定めても客観的にそうでないものは該当しません(ガイドラインⅠ15)。
- 基本財産
これは法人が「不可欠なものとして定款で定めた基本財産」です。これは、基本財産を構成する財産が「不可欠な特定の財産」であるかどうかではなく、基本財産のうち法人が「不可欠なものとして定款で」定めたものです。したがって、金融資産等のように不可欠特定財産に該当しないものでも基本財産にはできます。
(注)基本財産を「不可欠な財産」と説明されることがありますのでご注意ください。
- 目的事業の違い等
基本財産は「一般財団法人の目的である事業を行うために」ですが、不可欠特定財産は「公益目的事業を行うため」のものに限られています。この意味で不可欠特定財産を公益目的不可欠特定財産ともいいます。
また、一般社団法人には法律上の基本財産はありませんが、公益社団法人には不可欠特定財産はあります。
- 結局、基本財産には3種類あります
一つはいわゆる「基本財産」であり、一つは法律上の基本財産です(一般法172②)。これを区別するため後者を不可欠基本財産ということもあります。もう一つが不可欠特定財産である基本財産です。従来の基本財産概念とは違います。不可欠特定財産は基本財産とは限らないためその意味では広く、別の意味では狭くなっています。
一般に金融資産や土地、建物は不可欠特定財産ではありませんが(ガイドラインⅠ15)、設問のような場合、その土地、建物に特別の意味があり、個別性がありますので該当します。
基本財産を定めるかどうかは不可欠特定財産を除き法人の任意ですが、旧財団法人の寄附行為における基本財産に関する定めは基本財産に関する定めとしての効力を有しません(整備法89⑥)ので、基本財産を定めるには、改めて定め直すことになります(FAQⅥ-3-①)。寄附行為の基本財産に関する規定を削除した上で、新たに基本財産に関する規定を新設します(内閣府「定款の変更の案」(注4))。
旧社団法人には定款で基本財産を定めているところもありますが、これについては、法律は何も規定していませんので、任意規定であり、基本財産に関する定款の定めは引き続き効力を持ちます(FAQⅥ-3-①)。ただし、不可欠特定財産に関する規定(認定法5十六等)は公益社団法人にも適用されますので、任意ではなく強制です。
公益財団法人に移行前は旧主務官庁の承認を得れば行えます。しかし、それが得られない場合でも、一般財団法人または公益財団法人のどちらかに移行しさえすれば、申請の際に提出する定款の変更の案による変更後の定款に基づき法人の自主的判断で任意に処分することができます。この処分については行政庁の承認は不要であり、定款の変更の案については旧主務官庁の定款変更の認可も不要です(整備法102条、FAQⅠ-2-②)。
(注)旧主務官庁の業務の監督は、一般法人に移行した場合でも移行の登記の時に終了します(旧主務官庁の業務の監督はいつまで存続するのですか)。