実践課題Q&A
  1. 官庁の裁量から法律による行政へ
  2. 公益目的事業とは
  3. 公益法人会計の勘どころ(正)
  4. 公益法人会計の勘どころ(続)
  5. 公益法人会計の勘どころ(続々)
  6. わかりにくい公益法人の貸借対照表
  7. 大きく変わった基本財産制度 -基本財差の維持から正味財産の維持へ
  8. 特例民法法人をめぐって
  9. 公益目的事業財産をめぐって
  10. 遊休財産額の保有の制限
  11. 収支相償をどう図るか
  12. 公益目的事業比率の算定は
  13. 特定費用準備資金と資産取得資金はどう違うか
  14. 事例から見た公益目的事業
  15. 一般法人への移行と公益目的支出計画
  16. 一般法人か公益法人か-移行の経営戦略
  17. 一般・公益移行後の会計実務(1)予算
  18. 一般・公益移行後の会計実務(2)区分経理
  19. 移行時の役員等の選任と任期
  20. 「公益性」をどうとらえるか(1)
  21. 「公益性」をどうとらえるか(2)
  22. 区分経理はどうするのがいいか
  23. 配分計算はどうすればいいか
  24. 移行に伴う名義書換えその他の手続き
  25. 法人の組織と運営(上)
  26. 法人の組織と運営(中)
  27. 法人の組織と運営(下)
  28. 有価証券の会計処理
  29. 予算・決算の手続と定期報告
  30. 収支ベースと損益ベース -どこがどう違うの
  31. いろいろな収入支出、いろいろな勘定科目-どう処理するの(1)
  32. いろいろな収入支出、いろいろな勘定科目-どう処理するの(2)
  33. 役員等の変更と登記申請-その添付書類と押印等
  34. 特別の利害関係と利益相反
  35. 収支相償を考える(1)-寄付等は収支相償計算から除外すべきか
  36. 収支相償を考える(2)-いくつかの問題点
  37. 移行後の法人の監督と業務運営
  38. 役員等の責任とその免除、限定

公益法人会計は、従来からわかりにくいといわれています。それは普通の簿記会計とは違う計算体系になっていたり、財務諸表体系も独特だからです。平成16年基準から正味財産増減計算書がストック式からフロー式に統一され、収支計算書は財務諸表から除外されました。しかし、収支計算書は現在も必要ですし、公益法人化するとこれまでとは違ったものになります。これらをスッキリと理解する“勘どころ”を説明します。

 
 
(公益法人会計の財産法から損益法への転換)
公益法人会計は、新基準からフロー式に統一されましたが、それはどういう意味ですか。

財産の増減を把握するには二つの方法があります。一つは財産資産・負債)そのものの増減を即物的、直接的に把握する財産法であり、もう一つが損益法です。これは財産の増減ではなく、その発生原因収益・費用)を区分し、それから財産の増減を把握する方法です。

ある公益法人で、次のような取引があったとして、課長は収益、費用を、担当者は財産の受払い(収支)を管理するとします。

  • ① 商品100万円を掛けで仕入れた…課長(事業費用100万円)Cさん(未払金100万円)
  • ② 現金で商品が90万円で売れた…Aさん(現金90万円)課長(事業収益90万円)
  • ③ 残り商品を50万円で掛売りした…Bさん(未収金50万円)課長(事業収益50万円)

財産法と損益法

課長は費用100万円で収益140万円だから正味40万円の財産が増えたはずだと思っています。Aさん、Bさん、Cさんはそれぞれ現金が90万円増、未収金が50万円増、未払金が100万円増で、正味で財産が40万円増えたといっています。どちらも結果は同じです。この課長の捉え方が損益法であり、各担当者の捉え方が財産法です。同じ事柄の裏表です。資産・負債は実体があり、これに属する勘定を実在勘定といい、収益・費用に属する勘定を名目勘定といいますが、収益・費用は財産増減の影、写像ですから必ず一致します。

それではどちらでもいいかというとそうではありません。企業は“もうけ”が目的ですから何でもうかったかを知る必要があります。財産法では財産の種類別の増減はわかりますが、発生原因はわかりません。このため企業会計では、損益法をとります。

公益法人会計も平成16年基準から正味財産増減計算書がストック式からフロー式に統一されましたが、これは財産法から損益法に転換するということです。

 
(新旧の正味財産増減計算書)
企業では貸借対照表、損益計算書及び株主資本等変動計算書の3表が財務諸表の中心ですが、公益法人会計では貸借対照表と正味財産増減計算書の2表体系です。正味財産増減計算書も変わりましたがこれらの関係はどうなっているのでしょう。

取引には正味財産の増減をもたらさない交換取引と正味財産の増減をもたらす取引とがあります。さらに、後者は、事業活動による正味財産の増減(損益取引)とその元手となる資本の拠出等による正味財産の増減(資本取引)とがあります。「損益計算書」は、この損益取引を表すものです。

(1) 旧基準(ストック式)

ストック式の正味財産計算書は、「資産及び負債の各科目別に増加額及び減少額」を表したものです(旧基準第5・2)。すなわち、財産法によるもので「収益」「費用」の概念がなく、損益取引と資本取引の区別(資本と利益の区別)もありません。基本財産の拠出も事業収入も区別せず、一括して正味財産の増とします。これは、文字どおりの正味財産の増減計算書です。

旧基準

(2) 新基準

しかし、平成16年基準から正味財産増減計算書は、ストック式からフロー式に統一され、正味財産が指定正味財産一般正味財産とに2分されました。基本財産の拠出等は「指定正味財産増減の部」に、事業収益等は「一般正味財産増減の部」に区別して計上しなければなりません。

さらに、事業収益等は「経常収益」その他発生原因別に区分し、段階表示されます。これはまさに企業会計の「損益計算書」であり、「一般正味財産増減の部」は損益取引による正味財産の増減を表します。「指定正味財産増減の部」は損益取引以外の取引すなわち資本取引による正味財産の増減表です。つまり、新しい正味財産増減計算書は、「損益計算書」に資本取引による正味財産の増減表をつなげたものです。

新基準

 
(公益法人会計の簿記の仕組み)
公益法人会計は、簿記的にどういう構造で成り立っているのですか。

(1) 財務諸表を誘導する複式簿記の仕組み

先に例示した取引①~③(公益法人会計の財産法から損益法への転換)を企業会計の複式簿記に従って仕訳をすると次のようになります。

① (借方)事業費 100万円 (貸方)未払金 100万円

② (借方)現 金 90万円 (貸方)事業収益 90万円

③ (借方)未収金 50万円 (貸方)事業収益 50万円

この結果、損益に属する勘定は次のようになります(太字)。これを次の整理仕訳によって「損益勘定」に集合させると損益計算書が現れます(細字)。

ア (借方)事業収益 140万円 (貸方)損 益 140万円

イ (借方)損 益 100万円 (貸方)事業費 100万円

これが損益計算書を誘導する複式簿記の仕組みです。資本増減、貸借対照表についても同様です。

誘導法

 

(2) 企業会計と公益法人会計の簿記の違い

企業会計簿記の構成要素は、結局、「資産」「負債」「資本」と「収益」「費用」の5つしかなく、これを借方、貸方に区分すると、会計上の取引は次の8要素の組合せとなり、企業会計簿記はこれらを「損益勘定」「資本勘定」「残高(貸借対照表)勘定」の3勘定に集約する仕組みです。

公益法人会計の複式簿記も基本的には同じですが、公益法人会計は、「損益計算書」を独立した財務諸表とはせず、「損益勘定」「資本勘定」が一つの「正味財産勘定」になっているため、形式的には、「正味財産勘定」と「貸借対照表勘定」の2勘定体系です。

しかし、平成16年基準以後は、正味財産を一般正味財産と指定正味財産に2分しており、「一般正味財産勘定」は「損益勘定」に、「指定正味財産勘定」は「資本勘定」に相当しているので、実質的には、企業会計簿記と同じ3勘定体系です。

簿記の

 
(収支計算ベースの「収支計算書」とは)
「収支計算書」は、現在も作成していますが、そもそも「収支計算書」とは何ですか。

ストック式の正味財産増減計算書は、次のように、財産(資産・負債)を「資金」と「非資金」に2分し、その収支(増減)により正味財産の当期増減を測定する財産法の計算体系です。「収支計算書」はこの一翼を担うものであり、これが収支計算ベースの収支計算書です。特例民法法人が現在も指導監督上作成を義務付けられている「収支計算書」とはこれであり、「内部管理事項としての収支計算書」です。

これは二つのステップでできています。先ず、「資金」に属する勘定の収支を「収支勘定」に集め「収支計算書」を作成します。次に、この「収支差額」と「非資金」に属する勘定の収支とを「正味財産勘定」に集め、すべての財産の増減を表す正味財産増減計算書を作成します。したがって、「収支勘定」は「正味財産勘定」の一部であり、その内訳表です。

ストック式

 
(損益計算ベースの「収支予算書」とは)
公益法人化すると「収支予算書」は損益計算ベースのものにしなければならないそうですが、従来の「収支予算書」とはどこが違うのですか。

公益法人には「収支予算書」の作成が義務付けられますが(認定法21条)、これは損益計算ベースのもので、収支計算ベースのものではありません(認定規則30条、FAQⅥ-4-①)。これは内容的には新しい正味財産増減計算書と同じです。従来の収支計算ベースの「収支予算書」とは、次のような点で大きく違います。

収支予算書の比較

 
(「収支予算書」は作成するのに「収支計算書」は作成しなくていいのですか)
公益法人化後は「収支予算書」は作成するのに「収支計算書」は作成しなくていいのですか。その場合、予算統制はどうなるのですか。

公益法人は「収支予算書」を作成しなければなりませんが、それは損益計算ベースのもので、従来のいわゆる「収支予算書」(収支計算ベースのもの)ではありません。

いわゆる「収支計算書」は、収支計算ベースの「収支予算書」に対応する決算書ですが、損益計算ベースの「収支予算書」の決算は正味財産増減計算書(損益計算書)において行われますから公益法人化後はいわゆる「収支計算書」は作成する必要がありません。

損益ベースの「収支予算書」は、内容的には正味財産増減予算書であり、収支ベースではないため、従来の予算書に含まれていた資産取得支出や借入収入(交換取引収支)が予算の外に追いやられ、逆に資金収支を伴わない減価償却費、引当金繰入額等が予算に組み込まれることになります。

したがって、損益ベースの「収支予算書」では、従来の収支予算書と違って、資金収支の予算統制が徹底しません。これを補うものとして公益法人には「資金調達及び設備投資の見込みを記載した書類」の作成が義務付けられていますが、これで資金収支の予算統制が完全になるわけではありません。これについては、公益法人会計の勘どころ(続)で説明します。